2008年

2008年12月 第58回句会 作品 短評
2008年11月 第57回句会 作品 短評
2008年11月 第6回吟行句会 作品 
2008年10月 第56回句会 作品 短評
2008年9月 第55回句会 作品 短評
2008年8月 第54回句会 作品 短評
2008年7月 第53回句会 作品 短評
2008年6月 第52回句会 作品 短評
2008年5月 第5回吟行句会 作品 
2008年5月 第51回句会 作品 短評
2008年4月 第50回句会 作品 短評
2008年3月 第49回句会 作品 短評
2008年2月 第48回句会 作品 短評
2008年1月 第47回句会 作品 短評

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 第58回 句会 (2008年12月)
■ 作 品

水晶の伽藍造りて霜柱  舞岡 柏葉
←最高得点
網掴み風葬となる枯蟷螂 松本 道宏
←最高得点
掃除の手しばし休める木の葉雨 菊地 智
写真撮るもみじの場所を譲り合い 宇野 まりえ
干し柿を噛めば広がる日のにほひ  ひらと つつじ
一礼す冬帽似合う師の遺影  長部 新平
進むより他に道なし帰り花  飯塚 武岳
毛糸編む無口になりて毛糸編む 野路 風露
大根洗ひ老妻の手に余りたり   益子 紫苑
むかご飯昔話に花が咲く  千草 雨音
冷え冷えと風の行く手に地蔵  木村 桃風
街路樹の黄色に燃ゆる師走かな 吉田 眉山
北風にバッサバッサと朴葉落つ 境木 権太
今日もまた喪中の知らせ師走かな 奥隅 茅廣


■ 短 評  第58回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
干し柿を噛めば広がる日のにほひ ひらと つつじ
 日本人の食文化として高度な干し柿は、冬場を健康に過ごすための保存食として貴重なものである。白い粉を吹いた干し柿を噛むと甘い香りと共に、日の匂いが口いっぱいに広がる。郷愁をそそる句であり、こころ温まる句である。

★ 入選句
寒風や少女馬上に背を立てて ひらと つつじ
 馬術の競技であろうか。馬上の少女が寒風に向って背を立てて、鞭を入れている音まで伝わってくるような臨場感のある句。

写真撮るもみじの場所を譲り合い  宇野 まりえ
 観光地での美しい紅葉を背景にしての写真撮影は、順番待ちをするほど人気の場所である。お互いに順番を譲りあっている姿はよく眼にするところであるが、謙虚な日本人の一面を真面目に捉えている。

水晶の伽藍造りて霜柱 舞岡 柏葉
 群立して地表に現れた霜柱を「水晶の伽藍」と捉えた作者の観察力は流石である。朝日を受けたその伽藍は細くてもろいため、はかなく崩れてしまうことであろう。

毛糸編む無口になりて毛糸編む 野路 風露
 毛糸編む」のリフレインに少し違和感があるが、作者の実感に共感してしまう句である。

★ 並選句
風渡る湖面を舞台に枯葉かな 野路 風露
ぬかるみの轍に詰める落ち葉かな 益子 紫苑
進むより他に道なし帰り花 飯塚 武岳
父母祖父母主役とり巻く七五三 舞岡 柏陽


 第57回 句会 (2008年11月)
■ 作 品

堰堤【えんてい】を背面跳びや鮭遡上 舞岡 柏葉
←最高得点
シャンソンが秋を濃くする昼下がり 宇野 まりえ
山々は神の描きし秋の色 野路 風露
藪の神酔いの姿や烏瓜 菊地 智
宅配の菜に付きたる初もみじ  益子 紫苑
悪餓鬼を通せん坊の案山子かな  飯塚 武岳
大山の水ほとばしる新豆腐   ひらと つつじ
一茎の杜鵑草【ほととぎす】よし群れもよし 千草 雨音
秋日和ムンクと埴輪口開けて   松本 道宏
神の留守拍手空ろ宮の森   奥隅 茅廣
秋深し竹の香りの酒を酌む  木村 桃風
渡し場の寅さんの背に秋の雨 佐桑 慎二
瀬田川にやゝ乱れつつ雁渡る 吉田 眉山
渡る世は悲喜こもごもに冬支度 長部 新平


■ 短 評  第57回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
堰堤【えんてい】を背面跳びや鮭遡上 舞岡 柏葉
 9月上旬の頃、海で成長した鮭が産卵のため群をなして川を遡上する。しかし、堰堤があると素直に遡上できない。その障害の堰堤を跳ぶ時の様子を「背面跳び」と観察した力量は流石である。

★ 入選句
山々は神の描きし秋の色 野路 風露
 「秋の色」は秋らしい彩や気分、気配のことである。少し観念的な句であるが、山々を彩る色彩は正に神によって描かれた色彩であり、捉え方が良い。

悪餓鬼を通せん坊の案山子かな  飯塚 武岳
 田の畦を駈けずり廻っていた悪餓鬼は案山子に意地悪をされて通せん坊をされた。悪餓鬼は通せん坊の案山子の出来栄えに見入ったことであろう。

藪の神酔いの姿や烏瓜 菊地 智
 晩秋、実が赤く熟した烏瓜は正に藪の中の神様という感じである。しかも、その赤さを酔っ払いの姿と捉えた作者の感受性に喝采する。

シャンソンが秋を濃くする昼下がり 宇野 まりえ
 先月も「秋の晴れ空気ゆさぶるバッハかな」という音楽の句を発表されている作者である。 今月は秋の昼下がりに聴くシャンソンを「秋を濃くする」と把握されており、その感性に感心した。

★ 並選句
宅配の菜に付きたるもみじかな 益子 紫苑
大山の水ほとばしる新豆腐 ひらと つつじ
秋深し竹の香りの酒を酌む 木村 桃風


 第6回 吟行句会 
(2008年11月2日 馬車道・横浜赤レンガ倉庫他 参加者:8名)
■ 作 品

秋深し工作船の弾の痕 飯塚 武岳
若者の街に迷いて老の秋 奥隅 茅廣
秋の海グラデーションの空に溶け 野路 風露
秋フェア耳にハングル中国語 千草 雨音
馬車道に明治を拾ふ菊日和 齋藤 未央
馬車道のワゴンセールや冬近し 吉田 眉山
秋麗古き錨のモニュメント 松本 道宏
廃線の駅をしのぶや枯葉踏み 東 酔水


 第56回 句会 (2008年10月)
■ 作 品

秋の晴れ空気ゆさぶるバッハかな 宇野 まりえ
←最高得点
帯留めに母の珊瑚や秋日和 ひらと つつじ
八橋に舫い船あり鰯雲 吉田 眉山
秋時雨羽抜け烏のしゃがれ声 奥隅 茅廣
甲高く百舌の鳴き声空を切る  菊地 智
尖塔の十字架キラリ秋の空  飯塚 武岳
根岸訪い笹の雪食う子規忌かな   木村 桃風
食卓に焼き音たてし秋刀魚かな   千草 雨音
いわし雲水平線に滑り落つ   野路 露風
名月や観覧車より生還す   松本 道宏
球根植う妻の背語る花ことば  舞岡 柏葉
紡錘形オブジェとなりし檸檬かな 長部 新平
旅はじめ古城の垣のうす紅葉 益子 紫苑


■ 短 評  第56回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
帯留めに母の珊瑚や秋日和 ひらと つつじ
 珊瑚の帯留め」と爽やかな季語「秋日和」が響きあっている。しかも、この「珊瑚の帯留め」には母への追憶が込められていて、美しい句である。   

★ 入選句
尖塔の十字架きらり秋の空 飯塚 武岳
 秋空に聳える教会の頂に十字架が輝いていたのであろう。どこにでもある風景が素直に詠まれている。単純明快・絵画的な情景であり、秋の抒情が漂っている。

秋の晴れ空気ゆさぶるバッハかな 宇野 まりえ
 野外音楽会でバッハの曲を聴いていたのであろうか。「空気ゆさぶる」が大変上手である。「秋の晴れ」に一寸違和感があるが、逆にそこが共感を得たのかも知れない。

根岸訪い笹の雪食う子規忌かな 木村 桃風
 「笹の雪」は豆腐料理の一種。温めた絹ごし豆腐に葛餡をかけたもので、江戸下谷根岸の名物である。36歳で亡くなられた子規を偲び、根岸の里を訪ねられた作者の気持ちが伝わってくる。

食卓に焼き音たてし秋刀魚かな 千草 雨音
 本の秋を代表する焼きたての秋刀魚が、食卓でじゅうじゅうと音をたてている。秋の食卓では当たり前の光景であるが、臨場感があり、まさに庶民の音と味である。

★ 並選句
秋時雨羽抜け烏のしゃがれ声 奥隅 茅廣
星月夜絵本の鬼の愛らしく ひらと つつじ
虫の声夢の中まで聞こえ来る 野路 風露
菊人形瞬きもせず見入る子等 長部 新平
甲高く百舌の鳴き声空を切る 菊地 智


 第55回 句会 (2008年9月)
■ 作 品

雲払ひ木星連れて盆の月 吉田 眉山
←最高得点
ハイビスカスジャズ炸裂の夕べかな 宇野 まりえ
古都の路地土塀に日傘影の行く 舞岡 柏葉
梅干すや癖になりたる独り言 ひらと つつじ
朝顔や閉じて細身のこども傘  木村 桃風
湯上りの一姫二太郎宿浴衣  松本 道宏
蝉しぐれ袋小路の笠地蔵  飯塚 武岳
白桃の香こぼれし袋より  菊地 智
雨上がり今朝の槿の白きこと  千草 雨音
白萩を廊下に飾るケアハウス  益子 紫苑
棚経の僧袈裟袋肩にして  奥隅 茅廣
青りんご若者のごと転がりぬ 長部 新平


■ 短 評  第55回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
雲払ひ木星連れて盆の月 吉田 眉山
 ようやく涼しさを覚える「盂蘭盆」の夜の月が、快晴の空に偶然に配置されていた木星を「連れている」と詠んだ句で、「雲払ひ」が決まっている。

★ 入選句
ハイビスカスジャズ炸裂の夕べかな 宇野 まりえ
 独特の力強いリズムとスイングを持ち、集団的即興のジャズ演奏を「ジャズ炸裂」 と表現されたところが素晴らしい。ハイビスカスの配合も適切である。

古都の路地土塀に日傘影の行く 舞岡 柏葉
 古都鎌倉を訪れる観光客の風情が的確に詠われている。路地の土塀に映る「日傘影」に映像を見る思いがある。

白萩を廊下に飾るケアハウス 益子 紫苑
 ケアハウスを訪問されたときの印象であろうか。ケアハウスの清潔さが詠われている。飾られた花が、秋草の王といわれる「白萩」でないと清潔感が出ない。

七夕や姉妹そろひの鹿の子帯 ひらと つつじ
 句柄は一寸古いが、七夕に出掛けていく姉妹の鹿の子絞りの文様の帯に焦点を当てた句で、七夕祭に喜んで着飾った姉妹の姿が眼に見えてくる。

★ 並選句
朝顔や閉じて細身のこども傘 木村 桃風
七年の闇より出でて蝉時雨 吉田 眉山
梅干すや癖になりたる独り言 ひらと つつじ
雨上がり今朝の槿の白きこと 千草 雨音
青りんご若者のごと転がりぬ 長部 新平


 第54回 句会 (2008年8月)
■ 作 品

ひし形の口で餌を待つ燕の子 舞岡 柏葉
←最高得点
炎天に我が影消えて南中す 吉田 眉山
靴音を聞き分けてゐる門涼み ひらと つつじ
切子鉢赤のひとすじ冷そうめん 木村 桃風
豚の子の折り重なりて昼寝かな  松本 道宏
願かけて鬼灯市の人となり  奥隅 茅廣
茅葺きの門を吹き抜け青田風  益子 紫苑
子蟷螂むっくと小さき鎌をあげ  菊地 智
ローカル線訛りまったり帰省かな  千草 雨音
噴水の舞見物の多きこと  野路 風露
紫陽花や源氏物語いま佳境  飯塚 武岳
仁王門くぐれば夜店並びをり   長部 新平


■ 短 評  第54回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
ひし形の口で餌を待つ燕の子 舞岡 柏葉
 子燕が巣の中で餌を待っている姿がユーモラスに詠まれている。「ひし形の口」の具象化がこの句のセールスポイントであり、子燕の生態をよく観察している句。

★ 入選句
茅葺きの門を吹き抜け青田風 益子 紫苑
 茅葺きの門前に広々とした青田が広がっているのであろう。葉擦れの音も明るく吹く青田風が、威厳ある茅葺き門を吹き抜けて行くという一服の清涼感を感じる句。

炎天に我が影消えて南中す 吉田 眉山
 炎天と影の佳句は沢山詠まれているが、南中に自分の影が消えたと把えたところにこの句の発見がある。

靴音を聞き分けてゐる門涼み  ひらと つつじ
 暑ければ涼しさを求めるのは人情で、時間的には、夕涼み、宵涼み、夜涼み。距離的には、縁涼み、門涼み、橋涼みなどがあり、この句「門涼み」が決まっている。

雨の打つ蓮の浮き葉や平等院 吉田 眉山
 池や沼の面に蓮が若葉を出してうす緑のその円い葉を貼りつくように浮べている。その清清しい若葉が雨に打たれている。何でもない光景であるが、場所を鮮明にして成功した句。

★ 並選句
願かけて鬼灯市の人となり 奥隅 茅廣
夏のれん風の囃子に舞ひにけり 舞岡 柏葉
子蟷螂むっくと小さき鎌をあげ 菊地 智
切子鉢赤のひとすじ冷そうめん 木村 桃風
一滴の雨も降らさず雷過ぎぬ 益子 紫苑


 第53回 句会 (2008年7月)
■ 作 品

夕暮れの空のつなぎ目蝙蝠来 松本 道宏
←最高得点
豚カツのからりと揚がり巴里祭 ひらと つつじ
夏大根畝より首をぬっと出し 奥隅 茅廣
密豆の淡き甘さよ匙の音 木村 桃風
畳編む木槌の響く町は夏至 吉田 眉山
つゆ晴れ間干し魚匂う佃島 益子 紫苑
ビール飲むのどに弾ける泡の舞 野路 風露
梅雨寒や炎ゆらぎてニコライ堂 舞岡 柏葉
空青し水面に逆さ杜若 奥隅 茅廣
手を休め聴く風鈴の調べかな 千草 雨音
小径ぬけ緑にぬれし美術館 宇野 まりえ
夏の夜夢語る子らみずみずし 長部 新平


■ 短 評  第53回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
豚カツのからりと揚がり巴里祭 ひらと つつじ
 7月14日はフランスの革命記念日です。日本でも映画「パリ祭」にちなんでこの日を巴里祭と呼び、芸術家などが集まって楽しいひと時を過ごしています。 からり と揚げた豚カツとパリ祭の組合せに異外性があり、愉快な句です。

★ 入選句
畳編む木槌の響く町は夏至 吉田 眉山
 畳を編むとき、畳に針を刺しても中々通り難いために、その針を木槌で叩き、その木槌の音が夏至の町に心地よく響いているのでしょうか「町は夏至」の断定が決まっています。

理科室に並ぶフラスコ薄暑光 ひらと つつじ
 理科教室には色々な化学実験器具が並んでいます。その中のフラスコに焦点を当てて詠んだ句ですが「薄暑光」がよく利いています。

ビール飲むのどに弾ける泡の舞 野路 風露
 喉を通るときのビールの様子が美しく詠まれています。生ビールをジョッキで「乾杯」したときの一口目の上手さは「のどに弾ける泡の舞」そのものです。

つゆ晴れ間干し魚匂う佃島 益子 紫苑
 佃島を歩くといまも醤油と味醂の食欲をそそる甘い香りが漂っています。また、梅雨の晴れ間には特に干し魚の匂う町でもあり、町の風情が素直に詠まれています。

★ 並選句
密豆の淡き甘さよ匙の音 木村 桃風
男梅雨古刹の句碑を浄めたり 吉田 眉山
孔子像青葉しぐれに微笑みて 舞岡 柏葉


 第52回 句会 (2008年6月)
■ 作 品

ささくれて地球飛び出す飛魚【あご】の群れ 松本 道宏
←最高得点
風の道つけて青田のひろごれる ひらと つつじ
篆刻の一字難し薄暑かな 吉田 眉山
破れ傘ありて閑居の風情かな 木村 桃風
嬰児も染まりそうなる柿若葉 千草 雨音
たきぎ能木立に影を写したる 舞岡 柏葉
夏の渓振り込む毛鉤魚の影 奥隅 茅廣
早苗饗の酒も控え目老農夫 益子 紫苑
星影に余花はうす色通ひ道 飯塚 武岳
早朝の茅の輪くぐりて加賀の旅 宇野 まりえ
カーネーション無口な息子の贈り物 野路 露風
風鈴の文字流麗に「涼を呼ぶ」 長部 新平


■ 短 評  第52回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
風の道つけて青田のひろごれる ひらと つつじ
 早苗を植えてから1ケ月もすると、稲は活発に分蘗【ぶんけつ】して株を張り、背丈も伸びての色も濃くなる。そして、葉擦れの音も明るく、青田に吹く風はあたかも風道をつけて広がって行くようである。風に広がっていく青田波が目に見えてくる。

★ 入選句
嬰児も染まりそうなる柿若葉 千草 雨音
 柿若葉は光沢があり、艶やかな葉が印象的である。戸外に出た嬰児が柿若葉の色に染まりそうであると言う把握は個性的である。

カーネーション無口な息子の贈り物 野路 露風
 無口な息子からカーネーションを贈られた母親の気持ちが素直に詠まれている。「無口な息子」がこの句のセールスポイントである。

篆刻の一字難し薄暑かな 吉田 眉山
 篆刻とは主に篆書を印文に彫ることといわれているが、中国が起源の篆刻には難しい字がある。「一字難し」に篆刻に対する作者の気持ちが出ていて、季語が効いている。

たきぎ能木立に影を写したる 舞岡 柏葉
 句意は平明。薪の火を照明とする能の舞いを上手に詠んでおり、木立に映し出される薪能の陰影が目に見えてくる。

★ 並選句
早朝の茅の輪くぐりて加賀の旅 宇野 まりえ
破れ傘ありて閑居の風情かな 木村 桃風
青麦の光る穂の畝波のごと 益子 紫苑


 第5回 吟行句会 (2008年5月25日 野毛山動物園 参加者:8名)
■ 作 品

薄墨のはごろも鶴や若葉雨 千草 雨音
さみだれや朱鷺の嘴【はし】より雨しづく ひらと つつじ
梅雨兆す猿に母なる眸あり 木村 桃風
白熊の像に冷たき五月雨 奥隅 茅廣
五月雨レッサパンダもふて寝かな 芝崎 よし坊
ふて寝する檻の駱駝や走り梅雨 松本 道宏
暑気払うえさの色素で赤い鳥 東 酔水
走り梅雨吟行迎へるトピアリー 吉田 眉山


 第51回 句会 (2008年5月)
■ 作 品

木々の葉をうなずかせたり春時雨 宇野 まりえ
←最高得点
春日傘通院の母おしゃれして 長部 新平
花散りて日に日に疎し老樹かな 木村 桃風
8の字を描き空【くう】斬る初つばめ 舞岡 柏葉
魚偏の賑はふ湯呑風薫る 松本 道宏
若葉雨濡れたるままに古寺の縁 益子 紫苑
鉢売りの甲高き声みどりの日 菊地 智
花山椒見つけし庭や雨あがる 千草 雨音
チューリップカメラに向かひ背筋たて 飯塚 武岳
蒲公英や舗道の目地に花開く 吉田 眉山
河鹿鳴く川面に日暮れせまりけり ひらと つつじ
春雨の煙る港や護衛艦 野路 露風
朝顔の種蒔く頃か旧友【とも】の逝く 芝崎 よし坊
仲見世や人ごみの中蝶迷う 奥隅 茅廣


■ 短 評  第51回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
8の字を描き空【くう】斬る初つばめ 舞岡 柏葉
 「8の字を描く」に初つばめの新鮮な印象を具象化している。更に、「空を斬る」とつばめ返しの早さも表現している爽やかな句である。

★ 入選句
蒲公英や舗道の目地に花開く 吉田 眉山
 蒲公英は繁殖力に勝れ、根は想像以上に地中深く伸びている。都会の舗道の目地の隙間で力強く繁殖し、可憐な花を咲かせている。蒲公英をよく観察している。

若葉雨濡れたるままに古寺の縁 益子 紫苑
 日常的に風雨に晒されている古寺の縁。新緑の季節はみずみずしく、雨に濡れた木々の若葉の色合いは微妙に異なる。若葉雨にぬれた縁側の風情が詠まれている。

おぼろ夜のうるむ電光ニュースかな ひらと つつじ
 類句があるかも知れないが、喧騒たる都会の中にあって、社会の出来事を知らせる電光ニュースが潤んでいると言う朧夜の捉え方が上手い。

春の闇御堂の中の阿弥陀仏 木村 桃風
 月明かりのない春の夜の、おぼろに潤んだ闇の中に御堂の阿弥陀仏もどこか艶やかなお姿であったのであろう。上五と中七以降が響き合っている。

★ 並選句
木々の葉をうなずかせたり春時雨 宇野 まりえ
花散りて日に日に疎し老樹かな 木村 桃風
春雨の煙る港や護衛艦 野路 風露
春日傘通院の母おしゃれして 長部 新平
鉢売りの甲高き声みどりの日 菊地 智


 第50回 句会 (2008年4月)
■ 作 品

行く春や近江の湖の浮御堂 吉田 眉山
落椿君が鼓動の聞こえきて 飯塚 武岳
古びたる蔀戸の先花の雲 奥隅 茅廣
春光や単位認定通知来る 宇野 まりえ
目刺し焼き酒一合の彼岸かな 木村 桃風
啓蟄に旅立つ我や虫のごと 長部 新平
野良仕事段取り緩む日永かな 益子 紫苑
下町の戸口に待つ猫ぼけの花 芝崎 よし坊
まなこまで染めし入江の春茜 舞岡 柏葉
夜桜や水面に深く映りたり 野路 風露
夜桜の姿見となる川面かな 千草 雨音
雛鳥の前のめりして草萌える 松本 道宏
←最高得点
家猫の薄め開けたる春の雷 ひらと つつじ


■ 短 評  第50回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
夜桜の姿見となる川面かな 千草 雨音
 ライトアップされた大岡川の夜桜は実に美しく、桜にとっては川面そのものが姿見となってわが身を幻想的に写しだしている。擬人法を使って夜桜の美しさ表現していているが、「姿見となる」に発見がある。

★ 入選句
野良仕事段取り緩む日永かな 益子 紫苑
 春になってめっきり昼の時間が永くなったと感じられる「日永」。日永になったため野良仕事の段取りが緩んでしまったと把えたところにこの句の面白さがある。

行く春や近江の湖の浮御堂 吉田 眉山
 芭蕉の句「行く春を近江の人とおしみける」「鎖あけて月さし入れよ浮御堂」に触発された句であろうか。材料が揃いすぎいている感はあるが、風情のある句。

家猫の薄め開けたる春の雷 ひらと つつじ
 春雷は夏の雷のように激しくはなく、多くは二、三度で終わる。春雷の轟きに家猫もただ薄目を開けただけで、人間のように春雷に趣を感じていたのであろろ。猫の生態を木目細かく観察し、猫の気持ちまで詠んだ面白い句である。

雑木山の荒ぶる木々の芽吹きかな ひらと つつじ
 荒くれの雑木林にも一斉に芽吹きが始まったという春の息吹を詠っている。良いところを把えているが、表現に推敲の余地がありそう。4月6日の朝日俳壇、長谷川櫂選の中に「芽吹かながやがや騒ぐ雑木山」があった。念のため。

★ 並選句
初蝶やふわり野面をさまよいて 舞岡 柏葉
古びたる蔀戸の先花の雲 奥隅 茅廣
夜桜や水面に深く映りたり 野路 露風


 第49回 句会 (2008年3月)
■ 作 品

薄氷や日のあはあはと渡りける ひらと つつじ
凍て返るランドマークと港町 吉田 眉山
釣鐘をそろりと揺らし春一番 飯塚 武岳
←最高得点
春一番砂塵渦巻き去り走る 奥隅 茅廣
春浅し高き社にさきみたま(幸魂) 小田 まりえ
春の雪汚れ達磨の並びけり 菊地 智
春めきて戯れ映す日の障子 木村 桃風
電子辞書しゃがれ声聴く茂吉の忌 長部 新平
春の海砂絵の上にまどろみぬ 益子 紫苑
豆撒きの声遠く聞く里の暮れ 芝崎 よし坊
羞いて俯き咲くや枝垂れ梅 舞岡 柏葉
紅梅やかおり仄かに路地の裏 野路 風露
歩いても歩いても冨士曽我梅林 千草 雨音
廃校の壁に校訓雪明り 松本 道宏
←最高得点


■ 短 評  第49回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
薄氷や日のあはあはと渡りける ひらと つつじ
 春めいてきてもう氷など張ることはなと思っていたところ、急に寒さが戻ってきて薄い氷が張ることがある。しかし、日が射せばすぐに解けてしまう。そんな薄氷の上を春の日差しが過ぎて行く様子を「あはあは」と上手く表現している。

★ 入選句
春の海砂絵の上にまどろみぬ 益子 紫苑
 面白い情景を詠んでいる。「春の海ひねもすのたりのたりかな」の雰囲気の中で砂で描かれた絵の上でうつらうつらとまどろむ姿はこの世の極楽である。

歩いても歩いても冨士曽我梅林 千草 雨音
 富士山を背景にした梅林の素晴らしさは曽我梅林以外にはない。「歩いても歩いても」で梅林の広さが分かるし、この句のセールスポイント。新鮮な句である。

段畑や梅の香りを鋤きこみて 益子 紫苑
 山腹など耕運機が入らない傾斜地を手作業で耕すことは大変な重労働であるが、季節の香りである梅の香りが労働を盛り上げている。「鋤きこむ」の把握が良い。

緑立つ上野の森のギター弾き ひらと つつじ
 ロマンチックな句。ギターを弾いているのは青年像であろうか。松の新芽に囲まれた芸術の森で、想像逞しく心でギターの音を聞きいているのである。

★ 並選句
釣鐘をそろりと揺らし春一番 飯塚 武岳
電子辞書しゃがれ声聴く茂吉の忌 長部 新平
春の雪汚れ達磨の並びけり 菊池 智
紅梅やかおり仄かに路地の裏 野路 露風
凍て返るランドマークと港町 吉田 眉山


 第48回 句会 (2008年3月)
■ 作 品

クリオネの踊る心拍発光す 松本 道宏
風花のきらめく空の青さかな ひらと つつじ
林泉の飛石づたひ寒土用 吉田 眉山
教室の窓うつみぞれ問い解けず 飯塚 武岳
一茶の句床の間に掛け年始め 奥隅 茅廣
片よりて炊きあがりしや薺粥 菊地 智
剪定やすがる一葉に冬の風 木村 桃風
←最高得点
山の木々冬の薄暮に陰深く 長部 新平
風冴ゆる市松模様の休耕田 益子 紫苑
踏み台に一輪差しや寒椿 芝崎 よし坊
寒風の彫りたる襞や山高し 舞岡 柏葉
ガリバーの足跡つけし霜柱 野路 風露
初暦祖母となる日を数えつつ 千草 雨音


■ 短 評  第48回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
ガリバーの足跡つけし霜柱 野路 露風
 霜柱に足を踏み入れるとざくざくと音を立ててはかなく崩れる。その足跡がガリバーの足跡のようだと言うのである。霜柱にガリバーの足跡をつけて出掛けた作者の姿まで見えてくる。

★ 入選句
風冴ゆる市松模様の休耕田 益子 紫苑
 休耕田に草木の立ち枯れている模様を「市松模様」と捉えたのであろうか。「市松模様」に発見があり、「風冴ゆる」が効いている。

剪定やすがる一葉に冬の風 木村 桃風
 剪定を始めた木に懸命にすがりついている葉を発見した作者。これから「剪定」する木に、命乞いするかの様に「すがる一葉」の対比が面白い。

初暦祖母となる日を数えつつ 千草 雨音
 年が変わり、祖母となられる日を待ちこがれている気持ちが素直に詠まれており、「初暦」の季語が良く効いている。

軒氷柱雫が描く点描画 益子 紫苑
 軒氷柱が溶け始めて雫となり、その雫が下の雪の中に落ちて点描を描いている。「軒氷柱」の動きから「点描画」の把握に発見がある。

★ 並選句
風花のきらめく空の青さかな ひらと つつじ
寒卵二つ並んで鍋の中 千草 雨音
寒稽古剣道二段でありしころ 吉田 眉山
大関のころりと負けて冬ぬくし ひらと つつじ
踏み台に一輪差しや寒椿 芝崎 よし坊


 第47回 句会 (2008年1月)
■ 作 品

菩提樹の落葉をそっと本に挿し 千草 雨音
夕暮れに追はれし列車冬ざるる 松本 道宏
剥製の光る眼や夜の時雨 ひらと つつじ
さまざまの彩【いろ】に変りし木の葉散る 吉田 眉山
年の市観音通りあかあかと 飯塚 武岳
気忙しき師走さておき寄せに入る 奥隅 茅廣
かさこそと風道ながれる落葉かな 菊地 智
山眠る涅槃の姿や阿蘇の山 木村 桃風
オリビアを聴いた真冬の散歩道 長部 新平
冬枯れの蔓や小さき芽を宿す 益子 紫苑
←最高得点
焚火消え燻し匂いの野良着かな 益子 紫苑
←最高得点
松飾り手にして本屋に回り道 芝崎 よし坊
釣り人の丸き背さする冬日かな 舞岡 柏葉
←最高得点
ひよどりに恵み残して実千両 野路 風露


■ 短 評  第47回
俳句グループ代表  松本 道宏

★ 特選句
冬枯れの蔓や小さき芽を宿す 益子 紫苑
 枯れたように見える草や蔓を良く見ると、既に春に向けて小さな芽を宿している。類想のありそうな句であるが、このような発見を大切にしたい。

★ 入選句
焚火消え燻し匂いの野良着かな 益子 紫苑
 野良作業の脇の焚火が長い時間燻ってしまい、その匂いが野良着に染み付いたという「燻し匂い」に発見があり、勤労の一場面が詠まれている。

剥製の光る眼や夜の時雨 ひらと つつじ
 鳥や獣の剥製の目はあたかも生きているような目をして家の中を見詰めている。季語の「夜の時雨」が効いている。同じ表現に「小夜時雨」がある。

菩提樹の落葉をそっと本に挿し 千草 雨音
 同じ落葉でもハート形の菩提樹の落葉は大変大きい。聖樹ともいわれる菩提樹の落葉。その落葉を拾って「そっと」本の栞とした作者の優しい気持ちが出ている。

松飾り手にして本屋に回り道 芝崎 よし坊
 正月の神を祀る「松飾り」を手にしたまま、本屋に回り道をしたという歳末の一風景が何気なく詠まれている。中八の表現は中七に推敲したい。

★ 並選句
喜寿を過ぎ道ふり返る年の暮れ 奥隅 茅廣
釣り人の丸き背さする冬日かな 舞岡 柏葉
三味線の撥の激しく返り花 ひらと つつじ
気忙しき師走さておき寄せに入る 奥隅 茅廣
仕残しを抱えて聴くや除夜の鐘 千草 雨音