2012年 |
2012年12月 | 第105回句会 | 作品 弘明寺抄(33) New |
2012年11月 | 第104回句会 | 作品 弘明寺抄(32) |
2012年10月 | 第13回吟行句会 | 作品 |
2012年10月 | 第103回句会 | 作品 弘明寺抄(31) |
2012年9月 | 第102回句会 | 作品 弘明寺抄(30) |
2012年8月 | 第101回句会 | 作品 弘明寺抄(29) |
2012年7月 | 第100回句会 | 作品 弘明寺抄(28) |
2012年6月 | 追悼 | 吉田昭二さんを偲ぶ |
2012年6月 | 第99回句会 | 作品 弘明寺抄(27) |
2012年5月 | 第12回吟行句会 | 作品 |
2012年5月 | 第98回句会 | 作品 弘明寺抄(26) |
2012年4月 | 第97回句会 | 作品 弘明寺抄(25) |
2012年3月 | 第96回句会 | 作品 弘明寺抄(24) |
2012年2月 | 第95回句会 | 作品 弘明寺抄(23) |
2012年1月 | 第94回句会 | 作品 弘明寺抄(22) |
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第105回 句会 (2012年12月) |
■ 作 品 ■■■ |
室生寺を下りて葛湯の甘さかな | 境木権太 | ←最高得点
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見上げては庭師一服冬構 | 木村桃風 | ←最高得点 |
篆刻の細き筋彫る霜夜かな | 舞岡柏葉 | ←最高得点 |
潮引けば道あらはるる神の旅 | ひらとつつじ | |
湯豆腐は絹ごしがいいつるるんと | 東酔水 |
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賑わいや昔を今に酉の市 | 奥隅茅廣 |
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素直だけが取得と言われ帰り花 | 千草雨音 |
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厄除けの南天箸や栗の飯 | 松本道宏 |
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木枯や東京砂漠吹きぬけて | 飯塚武岳 |
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秋深し初恋告げる同窓会 | 野路風露 |
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こもれさす朝日に輝く落葉かな | 志摩光月 |
■ 弘明寺抄(33)■■ |
平成24年12月7日
松本 道宏 |
角川学芸出版の『俳句』12月号に「俳句はここで差がつく」の大特集が組まれておりました。所謂「省略の極意」で、俳句が上手くなるポイントが幾つか
ありましたので纏めてみました。 |
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見上げては庭師一服冬構 | 木村桃風 |
冬に向かって松の手入れなど庭師は常に樹形全体を美しくするために選定する木の全体の姿を気にします。その様子が良く描かれています。 |
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むさし野の夜はひろびろと冬の星 | ひらとつつじ |
一寸観念的なところがありますが、「冬の星」が効いています。 | |
顔見世の文字で見得切る勘亭流 | 千草雨音 |
12月は顔見興行が多く行われますが、中七の「文字で見得切る」に「勘亭流」の文字の素晴らしさが表現されています。 |
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丹沢の雲ひとつなき冬田打ち | ひらとつつじ |
冬田を打っている秦野盆地の風景が描かれています。「丹沢の雲ひとつなき」は省略が効いていて見事です。 |
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第104回 句会 (2012年11月) |
■ 作 品 ■■■ |
忍び寄る闇の速さやそぞろ寒 | 舞岡柏葉 | ←最高得点 |
燕帰る新しき墓ひとつ立ち | ひらとつつじ | |
吊革のラインダンスや秋うらら | 松本道宏 | |
冬近し獣のさばる過疎の村 | 境木権太 | |
蔦紅葉廃屋扉閉ざしおり | 野路風露 |
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満月をスカイツリーが串刺しに | 飯塚武岳 |
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雨止みて小鳥群れ来る刈田かな | 志摩光月 |
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ささやかに月見の宴盃二つ | 奥隅茅廣 |
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白萩の散るや冬への早飛脚 | 菊地智 |
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閑かさやひらり枯葉の露天風呂 | 木村桃風 |
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川端の信号待ちや十三夜 | 千草雨音 |
■ 弘明寺抄(32)■■ |
平成24年11月7日
松本 道宏 |
俳句には「俳句もの説」と「俳句こと説」があります。「もの」とは物象のことです。俳句とはそもそも「もの」に執着する詩であり、「もの」にこだわらない限り、その本質は崩れてしまう説です。 |
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冬近し獣のさばる過疎の村 | 境木権太 |
最近熊や猪が村や町に入り込んで新聞やテレビを賑わしています。越冬のために獣たちも必死になっているのでしょうが、それを「獣のさばる」と表現したところが面白いと思いました。 |
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満月をスカイツリーが串刺しに | 飯塚武岳 |
平成24年5月22日に開業したスカイツリーが今年9月30日の満月を 串刺しにしていると見た作者の驚きが伺える句で、面白い情景を詠んでいま す。 | |
忍びよる闇の速さやそぞろ寒 | 舞岡柏葉 |
「そぞろ寒」は冷ややかよりも冷たさを含んだ寒さで、晩秋に肌に感じる寒さのなかに、ぞっとするような感じも込められています。釣瓶落としの秋に迫り来る闇の速さが「そぞろ寒」とぴったりしています。 |
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第13回 吟行句会 (2012年10月11日 横浜三渓園 参加者:10名) |
■ 作 品 ■■■ |
敗荷の完膚無きまで大破せり | 松本道宏 | ←最高得点 |
茅葺きの屋根の厚みや秋麗 | 千草雨音 | ←最高得点 |
踏み石のどしりと置かれ秋麗 | 大野たかし | ←最高得点 |
枯れそむる蓮に日差しのやはらかく | ひらとつつじ | ←最高得点 |
古民家の振子時計や秋深し | 舞岡柏葉 |
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秋の日に映えて佇む三重塔 | 飯塚武岳 |
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秋の空水面に映り尚高し | 野路風露 |
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道案内するがごとくに彼岸花 | 木村桃風 |
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白芙蓉明治の小窓通し見る | 東酔水 |
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ひだまりにおばな輝く三渓園 | 志摩光月 |
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photo by A.C |
第103回 句会 (2012年10月) |
■ 作 品 ■■■ |
白萩や古筆展示に人の波 | 千草雨音 | ←最高得点 |
露けしや今もくぼめる手術痕 | ひらとつつじ | |
いかにせん居る所なき残暑かな | 奥隅茅廣 | |
罠仕掛け王手飛車取り月蒼し | 松本道宏 | |
花見せず香りで誘う金木犀 | 境木権太 |
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今からが青春時代敬老日 | 飯塚武岳 |
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苦瓜の裂けて扇風機終いごろ | 菊地智 |
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大正の切れ買う市や夢二の忌 | 舞岡柏葉 |
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松茸の幟の見える山の里 | 浅木純生 |
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門前の猫のかまけし牛膝 | たま四不像 |
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授与式を終えて名残の九月かな | 木村桃風 |
■ 弘明寺抄(31)■■ |
平成24年10月7日
松本 道宏 |
(前号より続く) 正岡子規にも「寒月や人去るあとの能舞台」の句があります。宴の跡の寂寥感がしみじみ伝わってくる句です。能の雰囲気を詠んだ子規の句は沢山ありますが、これらの句から見えてくることは能を特別なものとして扱っていません。松山(藩)は能を大切に育て守ってきた土地柄がその理由であったかも知れません。子規には「敦盛」「鉢の木」「薪能」「殺生石」「熊坂」などを見た能の句が沢山あります。 |
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名を問えば美男葛と僧答ふ | 千草雨音 |
草の名前がわからないため、お坊さんに尋ねたら「美男葛」と応えてくれた僧侶との押し問答に笑いを誘いました。 |
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べいごまや夕日に影を躍らせて | ひらとつつじ |
子供の頃の思い出でしょうか。現実に子供達がべいごまで遊んでいるところを見て詠んだ句でしょうか。いずれにしても「影を躍らせて」に子供たちの活き活きと遊んでいる姿が見えてきます。 | |
松茸の幟の見える山の里 | 浅木純生 |
秋の味覚「松茸」。何処でも取れる訳ではなく、秋季アカマツ林の地上に 自生。「松茸あります」の幟を見た時の作者の喜びが伝わってきます。 |
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第102回 句会 (2012年9月) |
■ 作 品 ■■■ |
遠花火木の間隠れに万華鏡 | 奥隅茅廣 | ←最高得点 |
西日差す下宿の壁のヘプバーン | ひらとつつじ | |
新米に無言の笑みや病みし妻 | 菊地智 | |
時計屋に溢るる時間黄落期 | 松本道宏 | |
法師蝉鳴き初めし日の碧き空 | 千草雨音 |
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瑠璃色の冴えて仔蜥蜴二三寸 | 舞岡柏葉 |
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パチパチと火の粉はじけて百日紅 | 境木権太 |
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堰堤に白鷺の居る夏休み | 木村桃風 |
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参道に三つ四つ五つ萩の花 | 野路風露 |
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処暑いずこ日本列島釜のなか | 飯塚武岳 |
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花器に盛るドライフラワー麦香る | 東酔水 |
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来ぬ人や入日に染まるいわし雲 | 志摩光月 |
■ 弘明寺抄(30)■■ |
平成24年9月7日
松本 道宏 |
今月は「俳句と能」について考えてみました。というのも、6月19日、放送大学神奈川学習センター同窓会で、能楽堂に於いて狂言「柿山伏」と能「葵上」を見学してきましたので、「俳句と能」について考えてみた訳です。 |
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西日差す下宿の壁のヘプバーン | ひらとつつじ |
青春時代の情景でしょうか。西日に照らされているヘプバーンのポスターが今でも鮮やかに目に焼きついています。 |
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打ち揃ひ喃語交じりの墓参かな | 千草雨音 |
一家打ち揃ってお墓参りに来ている家族の情況がわかる句で、「喃語交じり」が良く効いています。 | |
船の名のアラビア文字に大西日 | ひらとつつじ |
大西日は盛夏から晩夏にかけて耐え難いほどの暑さとともに、いらいらするほど激しく厳しい西日をいいますが、アラビア文字の船名に苛々するほどの大西日が当っていて、心理的な暑さまで感じられる句です。 |
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第101回 句会 (2012年8月) |
■ 作 品 ■■■ |
振子時計刻む昭和の夏座敷 | 松本道宏 | ←最高得点 |
炎昼や街みな歪み揺れて立つ | 飯塚武岳 | |
竹林の薄闇ひらく夏の蝶 | ひらとつつじ | |
片仮名のキの字揺らぎて守宮行く | 千草雨音 | |
五つ六つ青梅落し雨あがる | 菊地智 |
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廃線に乱れるままに夏の草 | 境木権太 |
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祇園会やゆらりゆらりと鉾の列 | 舞岡柏葉 |
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物の怪の影とも見えて芭蕉かな | 奥隅茅廣 |
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朝顔のしぼんだ数の暑さかな | 木村桃風 |
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気合い入れ炎暑の中にペタル漕ぐ | 野路風露 |
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炎熱の道走り抜け海を見ゆ | 浅木純生 |
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夕暮れに鳴るは風鈴耳澄ます | 長部新平 |
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蘭盆会ジャズのごとく読経きく | 志摩光月 |
■ 弘明寺抄(29)■■ |
平成24年8月7日
松本 道宏 |
(前号より続く)その他、古池の句には池に飛び込んだ蛙は何匹だったかなど、面白い話題があります。日本人は一匹と答えるのに対して西洋人や中国人は数匹と答えますし、「枯れ枝に烏の止まりたるや秋の暮」あるいは「枯れ枝に烏の止まりけり秋の暮」でも、日本人は烏は一羽と答えるのに対して、西洋人や中国人は数羽と言う感覚を持っています。不思議です。 俳句において「切れ」は非常に大切です。「古池や蛙跳びこむ水の音」の「や」、「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」の「けり」、「みちのくの伊達の郡の春田かな」の「かな」のように「や、かな、けり」などが切字の基本とされています。切字の他に連用形止め、助詞止め、名詞止めなどさまざまの小休止もあります。これらは全て「間」を持たせる効果を示しています。そして、この切字や間の問題はさらにリズムとも関連しています。日本語のリズムです。 このように考えてきますと、俳句と言う短詩型の特色ではやはり、切字の効用は大きいと言えますので、切字は大切にしたいものです。 (完) |
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せせらぎに線画を描き蛍かな | 奥隅茅廣 |
古今東西「蛍」の句は数多く詠まれていますが、この句は蛍の飛び交う様を的確に捉えています。特に 「せせらぎ」が効いています。 |
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山肌に白際立ちて百合二輪 | 境木権太 |
百合の花は洋の東西を問わず神話の中にも出てくる人類と最も親しい花の一つであり、写生の良く効いた句で、「百合二輪」が見事です。 | |
物の怪の影とも見えて芭蕉かな | 奥隅茅廣 |
「芭蕉」は秋の季語ですが、初夏に若葉を伸ばし、夏の間青く茂ります。しかし、その葉は雨に濡れたり秋風によって葉脈にそって裂け始めます。「物の怪の影」とは破れ芭蕉を面白く詠んでいます。 |
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第100回 句会 (2012年7月) |
■ 作 品 ■■■ |
雲水の黒き衣に夏の蝶 | 野路風露 | ←最高得点 |
羽たたむ暇なき給餌親つばめ | 舞岡柏葉 | |
無人駅青田の中に浮かびおり | 浅木純生 | |
くちなしに地蔵も細目少し開け | 境木権太 | |
青嵐八十路の歩み日々新 | 奥隅茅廣 |
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蛍火や緑のにおい手に残し | 志摩光月 |
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ふるさとの入日かがよふにごり鮒 | ひらとつつじ |
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やはらかき赤子の笑みや棉の花 | 千草雨音 |
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ペン胼胝は死語となりたり田草取る | 松本道宏 |
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根岸きてこごめ大福初浴衣 | 木村桃風 |
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青梅雨や傘とりどりの通学路 | 飯塚武岳 |
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歩いても歩いてもなお初夏の風 | 長部新平 |
■ 弘明寺抄(28)■■ |
平成24年7月
松本 道宏 |
(前号より続く)高浜虚子の「去年今年貫く棒のごときもの」の「去年今年」と体言止めにして「間」を作っていますし、石田波郷の「初蝶やわが三十の裾袂(すそたもと)」「花ちるや瑞瑞しきは出羽の国」の句は、「や」の他に最後が体言止めの切れになっていて、切れが二つあります。「切れ」は「間」ですから読んだ時に「あ、ここ、切れているな」と感じたのが切れです。 |
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高く上げ白き日傘のすれ違う | 野路風露 |
日傘をさした状態で、相手に迷惑をかけずに狭い舗道をすれ違うことはなかなか難しいです。お互いに接触しないように心掛けてすれ違いますが、 その一瞬の様子が「高く上げ」に表現されています。 | |
青梅雨や傘とりどりの通学路 | 飯塚武岳 |
通学の様子を見ていますと、傘の色が華やかなのに驚きます。青梅雨の中だけに通学路における子供たちの多彩な傘が目立ちます。 | |
雲水の黒き衣に夏の蝶 | 野路風露 |
一幅の絵を見ているような光景です。遍歴修行する禅僧の黒衣に付き纏う夏蝶が鮮やかに見えます。 |
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吉田昭二さんを偲ぶ |
松本 道宏 |
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『徳譽昭応眉山居士』 |
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「放友会の皆様に支えられ、励まして頂いて晩年は楽しく勉学をしていた様でございます。」と奥様からお便りを戴きました。 |
第99回 句会 (2012年6月) |
■ 作 品 ■■■ |
極楽に眉山聳えて五月尽 | 飯塚武岳 | ←最高得点 |
夏めくや日を吸ひよせて花時計 | ひらとつつじ | |
日食や小紋の浮かぶ木下闇 | 奥隅茅廣 | |
蛍飛ぶ言い争いを忘れ去り | 野路風露 | |
夏はじめ天の営む指輪かな | 木村桃風 |
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巣の落ちて番いつばめの思案顔 | 舞岡柏葉 |
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騒がしくツバメ集まる無人駅 | 境木権太 |
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雷鳴や親子五人に傘二本 | たま四不像 |
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ダービーの騎手勝馬に頬ずりす | 千草雨音 |
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観覧車ゆっくり廻る薄暑かな | 松本道宏 |
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五月晴れ山青々と吾を呼ぶ | 浅木純生 |
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植樹祭陛下にほほ笑む小学生 | 長部新平 |
■ 弘明寺抄(27)■■ |
平成24年6月
松本 道宏 |
(前号より続く)芭蕉の弟子の各務支考(かがみしこう)がこの句を詠んだときのことを書き残しています。芭蕉庵に何人かで居たとき、蛙が水に飛びこむ音が聞こえてきて、それで「蛙飛びこむ水の音」が先に出来て、さて、上五を何にするかと考えあぐんでいたとき、其角(きかく)が「山吹や」がいいんじゃないかと言いましたが、芭蕉は「古池や」と置きました。この経緯を辿りますと「蛙飛びこむ」は実際に聞こえてくる音で、芭蕉は「古池」を思い浮かべていたわけです。「古池や」の「や」と言う切れが必要なのは「間」がいると言うことです。間によって空間を広々と取り込むことが必要であり、この「間」が切字だと思うのです。古池以後に詠まれた芭蕉の名句はみな「現実+心の世界」で詠まれています。古池がまずあってそこに蛙が飛び込んだのではなくて、蛙が飛び込んだ音に心の世界と結びついたと思います。 (次号へ続く) |
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ダービーの騎手勝馬に頬ずりす | 千草雨音 |
明け4歳馬を集めたサラブレット特別レースは英国でダービー伯爵が最初に始めました。日本の競馬界では1932年から5月の最終日曜日に府中競馬場で行われており、勝馬に頬ずりする騎手の姿が詠まれています。 |
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日食や小紋の浮かぶ木下闇 | 奥隅茅廣 |
5月21日の朝、運よく雲間から金環日蝕を観察することが出来ました。 | |
騒がしくツバメ集まる無人駅 | 境木権太 |
無人駅に巣作りした親燕が餌を採ってきては子燕に与えるたびに 子燕が騒がしく、沢山の燕が集まっている様に感じられたのでしょう。 |
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第12回 吟行句会 (2012年5月10日 江ノ島 参加者 11名) |
■ 作 品 ■■■ |
夏めくや百のマストに百の風 | ひらとつつじ | ←最高得点 |
竜宮の門つきぬけり夏つばめ | 舞岡柏葉 | ←最高得点 |
水琴の音色か細き夏初め | 境木権太 | |
江ノ島に黒きポストや風みどり | 松本道宏 | |
夏の海眼下の屋根に鳶の影 | 大野たかし |
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卯浪くる弁天岩に句碑たちて | 飯塚武岳 |
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岩壁に夏草繁り海静か | 野路風露 |
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売れ残る日除けの陰の貝細工 | 浅木純生 |
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江ノ島の波のごとくに小判草 | たま四不像 |
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雲の峰静かな海に鳴りひびく | 東酔水 |
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巾着の賽銭箱あり五月晴れ | 木村桃風 |
第98回 句会 (2012年5月) |
■ 作 品 ■■■ |
寄席はねて佳き人ばかり春の宵 | 境木権太 | ←最高得点 |
生きるとは老いることなり花吹雪 | 飯塚武岳 | ←最高得点 |
母の日や母の繰り言懐かしき | 野路風露 | ←最高得点 |
モンローの紅き唇花ぐもり | ひらとつつじ | |
鳴き砂の消ゆる便りや啄木忌 | 舞岡柏葉 |
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ライト付き拡大鏡や黄砂降る | 松本道宏 |
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路地裏に古井戸のある四月かな | 木村桃風 |
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からし味噌独活の白さを引き立てり | 千草雨音 |
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春うらら眠りを誘うモーツアルト | 浅木純生 |
■ 弘明寺抄(26)■■ |
平成24年5月
松本 道宏 |
今回は松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」の句を例に「切れと俳句空間」について考えて見ました。 |
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路地裏に古井戸のある四月かな | 木村桃風 |
昔は路地裏へ入ると必ずと言って良いほど井戸がありました。有名なところでは樋口一葉ゆかりの路地裏に掘抜井戸が残っています。昭和の匂いの古井戸に四月の明るくいきいきした月を配合にしたところが良いと思います。 |
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生きるとは老いることなり花吹雪 | 飯塚武岳 |
普通「生きるとは働くこと」と言われていますが、この作者は「老いること」と言っています。これも一理あります。長生きをすることは生きている証拠ですから。「花吹雪」の季語がよく効いています。 | |
雨あがりまだら模様の山桜 | 境木権太 |
「しきしまのやまと心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」有名な本居宣長の歌ですが、古代は遠くから山の桜を眺めてその年の稲の豊作の豊凶を占っていました。雨上がりの山桜の姿が的確に詠まれています。 |
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第97回 句会 (2012年4月) |
■ 作 品 ■■■ |
観覧車花より出でて花に入る | 松本道宏 | ←最高得点 |
春の宵江戸切絵図の道のなか | たま四不像 | |
さざ波にひかりの乱舞春の磯 | 舞岡柏葉 | |
木蓮の弾けるばかり青き空 | 野路風露 | |
日が落ちて俄に香る梅林 | 境木権太 |
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春炬燵けむりのやうに父が居る | ひらとつつじ |
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いかなごの釘煮届くや国訛り | 千草雨音 |
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やわらかに光を受けるつくしんぼ | 浅木純生 |
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三鬼忌や西洋館のカフェテラス | 長部新平 | |
手渡せず文にぎりしめ卒業す | 飯塚武岳 |
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春の蝶どこにいたやら浮かれ飛ぶ | 奥隅茅廣 |
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花の雲ならぬ蕾の固さかな | 木村桃風 |
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草花や吹く風にのり山遊び | 東酔水 |
■ 弘明寺抄(25)■■ |
平成24年4月
松本 道宏 |
3月15日の「やさしい俳句の会」で「三月尽」と「三月来」の季語についての質問がありましたので、 |
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さざ波にひかりの乱舞春の磯 | 舞岡柏葉 |
春の海にはさざ波が麗かな春の日差しをとらえて輝きを空に返している。そんな春の磯の風景を旨く捉えて詠んでいる。「光の乱舞」に焦点をあてて詠んでいるところが良い。 |
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春炬燵けむりのやうに父が居る | ひらとつつじ |
春になってもまだかたずけずに出してある炬燵は、冬の炬燵にはない情趣がある。その春炬燵に父親が潜り込んでいたのであろう。「けむりのように」の表現になんともいえない趣きがある。 | |
木蓮の弾けるばかり青き空 | 野路風露 |
木蓮は多くの方によって詠まれてきているので類句が心配だが、青空に咲く木蓮の姿を「弾けるばかり」と詠んだ作者の気持ちが読者によく響いてくる句である。 | |
第96回 句会 (2012年3月) |
■ 作 品 ■■■ |
夕暮れをそろり伸ばして二月尽 | 舞岡柏葉 | ←最高得点 |
春どなり靴屋に靴のあふれたる | ひらとつつじ | |
受験子の唇かたく門を出る | 木村桃風 | |
揺れる枝かくれんぼする椿かな | 奥隅茅廣 | |
歩み初む子に手を打って日脚伸ぶ | 境木権太 |
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不揃いの母の味する雛あられ | 野路風露 |
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鰭酒の滋味沁みわたる熱さかな | 浅木純生 |
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春満月宇宙の闇の出口めく | 松本道宏 |
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パラボラにお日さま集め福寿草 | 菊地智 | |
僧二人佇む駅に春の雨 | 千草雨音 |
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早春やシュガーポットの煌めきぬ | 長部新平 |
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春の宵ガス灯のもと淡き影 | 東酔水 |
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風花や西方浄土茜さす | 飯塚武岳 |
■ 弘明寺抄(24)■■ |
平成24年3月
松本 道宏 |
2月16日の「やさしい俳句の会」で「季語」と「季題」の違いについての質問が在り、簡単にお答えをしましたが、次のように整理しました。
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春どなり靴屋に靴のあふれいる | ひらとつつじ |
ウインドに並べられた色とりどりの靴から春が間近くなったことへの感慨が詠われている。「春隣」は春がすぐ近くまで来ているの意で、いくつかの歳時記が「春どなり」と濁音で表記しているが、賛成できない。 |
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受験子の唇かたく門を出る | 木村桃風 |
勇んで受験に挑戦したものの、あまりにも難しい問題になすすべもなく受験子の門を出てきた様子がよく表現されている。 | |
梅園に一輪を見る和みかな | 奥隅茅廣 |
今年は例年より寒く、梅の花の開花も大分遅れている。たまたま一輪が開花し始め、作者の心がなんとなく和み始めたのであろう。そんな心理が伺われる句である。 | |
第95回 句会 (2012年2月) |
■ 作 品 ■■■ |
どんど焼き昇竜のごと炎立つ | 飯塚武岳 | ←最高得点 |
餅を焼く明日は明日と裏返し | 野路風露 | ←最高得点 |
風花や夕暮れ時の異空間 | 長部新平 | |
特段のことはなけれど初日記 | ひらとつつじ | |
家族増え願いも増えた初詣 | 境木権太 |
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新成人はじけて揺れる髪飾り | 舞岡柏葉 |
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初春や茶筅の先のうすみどり | 村木風花 |
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初富士や点滴の落ち緩やかに | 吉田眉山 |
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初夢はセピア色した友の顔 | 千草雨音 | |
下萌や復興の地に逞しく | 奥隅茅廣 |
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蒼天に膨らみかけた猫柳 | 浅木純生 |
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車いす段差も険し冬木道 | 木村桃風 |
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蝋梅の葉もなき枝に香るなり | 東酔水 | |
福寿草緑は色の王者なり | 松本道宏 |
■ 弘明寺抄(23)■■ |
平成24年2月
松本 道宏 |
大正2年3月、「私を『旧派』と呼ぶ者があります。私は新派に見残された旧派でなくて、自ら俳句の為に旧を守らんとする『守旧派』であります」と述べ 、 |
スカイツリー残照映えて日脚伸ぶ | 飯塚武岳 |
東京スカイツリーは昨年12月に竣工し、いよいよ今年5月22日に開業となる。毎日スカイツリーを眺めていると、日毎に日脚の伸びていく様子を見ることが出来る。多少「残照映えて」「日脚伸ぶ」が重複しているが。 |
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家族増え願いも増えた初詣 | 境木権太 |
受験生は天神様、商売繁盛にはお稲荷さんといった具合に、最近はご利益によって社寺を選ぶ人も多くなったが、家族が一人増えると当然の事ながら願い事も増える訳で、的を射た表現である。 |
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風花や夕暮れ時の異空間 | 長部新平 |
晴天にちらつく雪を「風花」と言うが、夢のように美しい季語である。しかも風花のちらつく夕暮れ時に「異空間」を感じた作者は詩人である。 | |
下萌や復興の地に逞しく | 奥隅茅廣 |
東日本大震災では、地震、津波に加え、放射能物質による甚大な被害を受けたが、自然はその季節になれば何事もなかったように日常の営みを始める。復興の地に逞しく営み始めた下萌えを目敏く詠っている。 | |
第94回 句会 (2012年1月) |
■ 作 品 ■■■ |
千年の活断層や冬すみれ | ひらとつつじ | ←最高得点 |
北風に影も縮まる家路かな | 奥隅茅廣 | |
柚子湯して香り床まで連れて行きし | 菊地智 | |
クリスマス仏頂面の占い師 | 飯塚武岳 | |
包丁の音途切れなく大晦日 | 村木風花 |
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のら猫の並んで端坐ひなたぼこ | たま四不像 |
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枯園に立ちて俯く裸体像 | 木村桃風 |
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東北へ言葉選びて賀状書く | 舞岡柏葉 |
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田を守る友の嘆きや暴れ猪 | 境木権太 | |
一とせの未来明けそむ初暦 | 千草雨音 |
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スキー列車鈍行ぶるんと揺らし過ぐ | 松本道宏 |
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10年は元気でいるぞ日記買う | 野路風露 | |
今年また飾売りする街の角 | 浅木純生 | |
枯れ草を分け出でて咲く水仙よ | 東酔水 |
■ 弘明寺抄(22)■■ |
平成24年1月
松本 道宏 |
今月は「守旧派宣言」について学びましょう |
千年の活断層や冬すみれ | ひらとつつじ |
過去に繰り返し活動し地震を引き起こしてきた断層で、今後も活動する可能性の高い活断層は、通常約千年から数万年に一回の割合で発生すると言われている。活断層と冬すみれを対比させ、清楚な「冬すみれ」に想いを馳せている。 |
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極月や病みゆく妻の肩細る | 菊地智 |
何時病まれても困るが、特に師走に妻に病まれると悲劇である。その妻の病が日ごとに重くなり、「肩細る」思いを間の当りにしての作者の気持ちを察するにあまりある句である。 | |
クリスマス仏頂面の占い師 | 飯塚武岳 |
皆が浮かれているクリスマスの日に仏頂面した占い師に直面したのであろうか。自分を占えない、なんとなくユーモラスな句で、年の瀬を感じさせる。 | |
10年は元気でいるぞ日記買う | 野路風露 |
近年は「10年日記」なるものが販売されていて大変人気商品となっている。10年前の自分がタイムマシンのように蘇り、自分や家族の10年史になるからである。10年先の元気を見越して日記を買う作者の意気込みが感じられる。 | |